生産者と買い手の間に立ち「おいしさ」や「笑顔」をつなげていく、小さな八百屋の挑戦
静岡県沼津市と熱海市にお店を構える「REFS(レフズ)」は、生産者の思いが伝わる農薬不使用栽培の野菜や、食にまつわる加工品を取り扱う八百屋です。
スーパーに行けば、夏でも大根、冬でもきゅうりが買える、消費者にとっては便利で“良い”時代。ですがREFS代表の小松浩二さんは、あえて静岡県内で採れる旬の野菜のみを販売。当然、収穫の端境期には店頭に並ぶ品数も減りますが、その時期の「本当においしい野菜を提供する」という軸がぶれることはありません。
1店舗目オープンから、今年でちょうど10年。土地に根ざし、地場の食材を提供し続けるREFSの思いを聞きました。
日本の食が持つ多様性は、他の国にはない財産
REFSの店頭には、小松さん自らが生産現場を訪れ、味や生産者の思いに惚れ込んで買いつけた食材ばかりが置かれています。
「店に置くかどうかの決め手は、味はもちろん、生産者の野菜や土作りへの思い。同時に、独りよがりにならずに食べる人の意見にも耳を傾ける寛容さがあるかどうか。あとは作り手の“笑顔”が、思わず畑に通いたくなるような素敵なものであるかどうかも、僕の中ではすごく大事なんです」
小松さんが「食」の持つ可能性に気づいたのは学生時代。大学を1年休学し、ユーラシア大陸横断、29カ国を訪れる旅に出ていたときのことでした。
「どの国に行っても何かしらおいしいものがあり、その周りには必ず人々の“笑顔”がある。食には人を幸せにする普遍的な価値があるんだ、と強く印象に残りました。中でも忘れられないのが、シチリア島で食べたトマト。その深い味わいに感動したのが、野菜に興味を持ったきっかけです」
さまざまな国を訪れるうちに、日本に根づく食の多様性に気づかされたといいます。
「日本は小さな島国ですが、少し地域を移動しただけで全然違う食文化がありますよね。それはすごく面白いことで、日本の食が持つ魅力を伝えたいと思いました。
REFSの名前は『Real Food Story』が由来。食文化が持つ豊かな物語を発信するための形態を考えたとき、野菜やそこに付随する加工品を通じてお客様と話ができる“八百屋”というスタイルが最もしっくり来ると思ったんです」
おいしいのに全く売れない。オープン当時の苦悩
食品卸会社に就職し、営業や食品バイヤーを経て独立。独立後は、約半年かけて南伊豆から富士宮まで、農作業の手伝いをしながら志の高い生産者をめぐり、仕入れ先の開拓に勤しみました。
その後、思い描いていた理想の八百屋を形にするため、29歳のとき地元である沼津市の中心部にREFS1号店をオープン。本当においしいと自信を持って届けられる野菜ばかりを店頭に並べましたが、反応は想像以上に厳しかったそう。
「オープン当初は、知り合い以外の来店客がほとんどいませんでした。すごく良い野菜はそろえたし、価格も適正なのに売れない。僕の力不足で『野菜はスーパーで買えばいい』という認識をくつがえせなかったし、うちの野菜が本当においしいという事実も伝えきれなかった。八百屋としての販売力の低さを実感しました」
「でも貴重な野菜を腐らせるわけにはいかないので、近隣の飲食店に出張販売に行ったり、それでも売れないときは配り歩いたり。本当においしい野菜を置くためには、生産者との関係作りも大切にしなければいけません。
当時は『ほうれん草が採れた』と連絡をいただいたら、たとえそれが3パックだけでも30キロ先に車を走らせて取りに行ったりもしました。オープンから2~3年は、常に余裕がなく経営も安定しない状態でしたね」
また、どんなにコミュニケーションを大切にしても、お客様との間に信用が生まれるまでには時間がかかる、という現実も突きつけられました。
「『こんな食べ方だとおいしいですよ』『こういう人が作っているんですよ』などお伝えし、買っていただいたとします。それが気に入ってもらえたら、数日後にようやく再訪につながり、そこからまた違う提案をする。当たり前ですが、1回きりの接客で良い関係はつくれないので、その繰り返しと積み重ね。
野菜によっては足が速いものがあるので、たくさん購入しようとしているお客様には、『買いすぎないほうがいいですよ』と正直にお伝えしたりもして」
「正直にお伝えする、ということで言えば、おいしい無農薬イチゴを育てている生産者がいるのですが、残念なことに病気が出て、止むなく農薬を使ったので“無農薬”と言えなくなってしまったことがありました。楽しみにしているお客様には、その経緯と収穫2週間後なら残留農薬が取れることをお伝えして、判断いただけるようにしたんです。
工業品と違い、農産物には品質に変化があって当たり前。雨が多かった前後の野菜は味がぼやけることもあります。そういう生産者の苦労や背景もキチンとお伝えすることを大事にしてきたことで、徐々に僕たちを信頼して『任せるよ』と言ってくれるお客様も増えてきたんだと思います」
八百屋とは、生産者とお客様をつなぐ「メディア」
熱海にある2号店は、地下に調味料や職人の生活道具、1階に野菜や果物、2階は仕入れた野菜を提供するカフェという店舗構成。そこにもREFSの意図があります。
「僕たちが扱うのは、特別な日の特別なものではなく、日常の食卓に並べてほしい食材です。カフェでは“料理という作品”を楽しむのではなく、あくまでも“素材”を楽しんでほしい。だから『採れたての野菜をグリルして、店内にある調味料を加える』ようなシンプルな提供の仕方を心がけ、いい素材を使うだけでこんなおいしく食べられると知っていただきたい。いろんな食材の魅力や出会いを体感してもらうための場所でありたいんです」
そもそも食のリアルなストーリーを伝えようと思ったのは、流通が発達していく一方で、食材が生まれてくるまでの背景や作り手の苦労が感じられない世の中になっているのではないか、という思いがあったから。
「冬でもきゅうり、夏でも大根というように、年中欲しい野菜が買えるのは本当にすごいことなんです。REFSはそれをしない代わりに、お客様一人ひとりのニーズに合わせて畑の今を感じられるベストな提案をする。そして、生産者にはお客様の様子や喜びの声など、リアルな声をフィードバックする。REFSは八百屋ですが、同時に“メディア”でいたいんです。
メディアという言葉は、マスメディアのイメージが先に立ちますが、もともとは“ミディアム=真ん中”という意味でした。生産者とお客様の真ん中に立ち、双方に思いを“伝える”という役割を大切に担っていきたいと思っています」
REFSを通じて静岡の食材を応援する、サポーターを増やしたい
1号店誕生から10年たった今、小松さんは、徐々に当初目指していた理想の八百屋の姿に近づきつつある、と感じています。
「お客様との関係作りも軌道に乗り、課題だった販売力もついて『気合いを入れて売るので、これだけ作ってください』と生産者に提案できるようになってきました。今の目標は、生産者が本当に作りたい野菜や果物だけに専念できる環境を整えること。それがちゃんと収入になり、彼らの生活の基盤になるような状態に持っていきたい」
先日REFSでは、生産者と二人三脚で大豆を生産、旬の時期は枝豆として販売し、以降は乾燥させて保存することで、最終的に豆腐として加工販売するところまでを行いました。
「この方法なら1年かけて大豆を消化できるので、取扱量が上げられます。とはいえ、いったん豆腐に加工すると賞味期限は4日間。最初は不安でしたが、試食をしていただくと『おいしい!』と声が上がり、作った45丁が全て完売したんです。次回からは豆腐を作る回数から逆算し、大豆の買いつけ量を提案することにしました。この手法であれば、生産者も生活の目処が立てられるので、安心して作付けできるようになります」
顔の見える小規模店ならではの良さを、これからさらに伸ばしていくのが狙いです。
「大手スーパーのような大量仕入には価格の面で太刀打ちできませんし、一方で『おいしい野菜だから』と高価に販売してはお客様も継続購入が難しい。
ですが、今の規模であれば、値段設定を上げなくても、旬の食材が持つおいしさの価値と味に対する満足度、両方のバランスの良い食材が届けられます。この良い循環を継続し、輪を大きくしていくために、REFSを通じて、静岡の食のサポーターになってくれる人を増やしていきたい。生産者、お客様双方が幸せになれるかたちを、これからも追求していきたいと思っています」
取材・文:木内アキ 写真:栗原洋平
PROFILE
代表: 小松 浩二
住所: 熱海店:熱海市咲見町7-29
電話番号: 0557-48-6365
Mail: refs.atami@gmail.com
Web: http://fujiyama-veggie.com
事業内容: 野菜のセレクトショップ(八百屋)の運営、野菜の全国宅配・地域宅配、ウエディングパーティイベント用野菜の企画、食育プログラム、長期体験型プログラム(「一杯のスープをつくる時間」)の企画運営など。