会社員だからこそ感じた“危機感”からの脱出。自分のキャリアをつくる「地方×複業」という選択
新卒でクックパッドに入社し、その後「Soup Stock Tokyo」などを手がけるスマイルズを経て、現在は旅行系のベンチャー企業にプランナーとして勤める小林未歩さん(27歳)。
平日は東京で会社員として働きながら、昨年12月から月に2〜3日のペースで熱海の老舗ホテル「ホテルニューアカオ」が運営する庭園「アカオハーブ&ローズガーデン」で複業(副業)する生活を送っています。
2019年4月から働き方改革が本格的に導入されるなど、「新しい働き方」として注目が集まる複業。ですが多くの人は「興味はあるけど、何を複業にすればいいか、どこから始めればいいか分からない」と戸惑いを抱えているのではないでしょうか。
「実は複業を始めようと思ってスタートしたわけではないんです」と話す小林さんに、なぜ複業という働き方を選択したのか、どこから始めたのか、そして「地方」を選択したのはなぜだったのか。きっかけや思いを聞きました。
「会社の名前で仕事をしている」という怖さ
25万坪の広大な敷地面積を持つアカオハーブ&ローズガーデン(以下、ガーデン)。多い時には月に約5万人が来場する熱海有数の観光スポットです。
「社員の方々と一緒に、来場者の満足度を上げるための仕掛けを考えています。プランナーとして、企画提案から実行までプロジェクト全体のサポートをしたり、細かいクリエイティブのディレクションなども行います」
2月に開催された「フラワーバレンタインイベント」、ガーデンの新たな絶景スポットとして人気を集める「フレームハウス」や「切り株ベンチ」も小林さんの発案。
ほかにもお土産として販売しているハーブティのリブランディングなど、クックパッドやスマイルズで培った企画力を生かし、ガーデンで動き始めている新たな取り組みにも積極的に関わっています。
最低でも月に1日は現地を訪れ、適宜オンラインでの打ち合わせや進捗共有、外部へのデザイン発注などリモートワークも活用しながらプロジェクトを進めています。月額の収入は、1日1.5万円(交通費別)を基準に、稼働日数で変動しています。
そもそも小林さんが複業という働き方を選択した背景には、「会社員だからこそ感じた“危機感”があった」と振り返ります。
「新卒でレシピ検索のクックパッドに入社し、クックパッドの広告を活用して、大手食品メーカーのマーケティングやプロモーションを支援する企画営業をしていました。仕事はやりがいがありとても充実していましたが、入社後2年くらいして、『自分の仕事は会社の名前があってできているのではないか』と急に不安になったんです」
会社の肩書きがなくても同じような仕事ができるのだろうか、そんな不安や焦りを抱え1年が過ぎた頃、当時の上司が静岡県の企業に転職し、転職先の新事業に「複業」として関わりはじめたことが転機になりました。
「その上司とまだ仕事がしたいという思いと、もともと旅好きだったこともあって地方の観光に興味があったんです。興味のある分野に関われるチャンスだと思って『何かできることはないだろうか?』と手を挙げさせてもらいました。
実際にメインで関わったのは、静岡中部地区の新グルメを地元企業と開発するという仕事だったのですが、何度かに静岡に通い、地域の魅力を発掘するところからスタートしました」
約1年かけて実現したプロジェクトは、最終的に「かつサンド」(カツオ漁獲量日本一を誇る焼津のカツオを使ったサンド)が商品化され、地元の食イベントでは大行列ができるほどの人気商品となりました。
「当時、本業の仕事はクライアントとの向き合いはあるものの、自分の仕事が誰の役に立っているのか、本当に人の心を動かせているのかが見えづらかった時もあったんです。
静岡でのプロジェクトは、少ない人数だからこそ企画から販売までに関わることができましたし、普段あまり触れることがない、商品を手に取るお客様の喜ぶ顔まで見ることができ、本当に楽しかったんです」
会社ではなく“自分”を必要としてくれる人や環境が地方にある。商品も人との関係性もゼロから作り上げた静岡での経験は、「これまでのキャリアや努力を肯定してくれる大きな出来事だった」といいます。
「地方は東京に比べて人材は少ないですが、だからこそちょっと動くことで『お!』と思ってもらえます。小さくとも全体観を見て動かせるプロジェクトも多いですし、成長できるステージがある。地方で複業することは、自分のキャリアにとってもよい経験になると感じました」
複業こそ結果を残すことが大切
昨年、ビズリーチが実施した「副業・兼業限定の地域貢献ビジネスプロ人材」の公募(現在募集は終了)でホテルニューアカオの複業募集の存在を知り、飛び込みました。
一方で、複業は「本業とのバランス」が大きな課題のひとつ。オーバーワークになり複業を辞めてしまったという声も少なからずあるなか、小林さんは当初の「週末複業」スタイルをやめ、今年から本業を週5勤務から週4勤務に切り変え、週に1日は複業に当てられるようにしました。
「いま、熱海以外にも都内企業をはじめ2社ほど複業しています。静岡での経験でも感じたことですが、複業だからといって全てをリモートワークで完結させたり、『お手伝い』感覚でいいわけはなく、しっかり結果を残すことが大事。まずは実績を作らないと企業といい関係は作っていけません」
ガーデンで複業勤務を開始して2ヶ月弱で、「フラワーバレンタインイベント」を“強行”した背景には「今後もこの企業と関わりたいからこそ、絶対に何か形にする」という思いがあったそうです。
「閑散期である2月に何か企画したいというのは、以前から社員の皆さんが考えていたことでした。元からあった思いやアイデアをブラッシュアップするなど、あくまでも私は背中を押しただけですが、いままでしたことがないことを実現すること自体が、会社の成功体験になり、次につながると思ったんです」
「男性から女性へ花束をプレゼントする」をテーマに、フローリストが作るミニブーケの配布やカップルで撮影できる期間限定のフォトスポットを企画。2日目には配布するブーケが足りなくなるほど盛況となりました。
短期間で企画から実施まで社員とチーム一丸となって動いたことで、仲間意識やお互いのモチベーションを高める機会にもなったと話します。
「今では社員の方が気軽に相談をくれたり、何ができるかを考えて一緒に動き出したり、お互い信頼できる関係が作れていると思います。ガーデンの方たちがいつも温かく迎えてくれるので、私もいいものをアウトプットしていかなきゃと気持ちが引き締まりますし、東京に戻っても頑張ろうという活力にもなっています」
「先ほどもお話しましたが、地方は実績が作りやすい環境だと思います。であれば、ちゃんと責任を持って関わらないともったいない。片手間程度でのお手伝いでは、自分自身にとってもあまり意味がありません」
動くことで自分自身が見えてくる
静岡での仕事を皮切りに「複業」という働き方を始めてから約3年。改めて「これからも複業は続けていきたい」と話します。
「もともと旅が好きで普段から一人でいろんなところに出かけるのですが、旅と仕事ってすごく似ているんです。今まで行ったことのない土地に訪れると、『こんな素敵な場所があったんだ!』と新たな発見や視点をもらえます。仕事を通して自分の好きな人やものが増えたり、価値観や世界を広げてくれる人たちに出会える思うと、改めて一社だけで働くのはもったいないなと」
だからこそ、自分も複業として関わる企業に何か気づきや選択肢を与えられる存在でいたい。“内側”だけだと気付けない魅力や課題を、第三者目線で伝える存在は重要なのではないかと続けます。
一方で、複業で実績を作ることが自身のキャリアにもつながる時代。自分の経験を地方で活かすだけではなく、複業で得た価値観の広がりや成功体験が本業で活きることもあります。小林さん自身、地方での複業がきっかけとなり、旅行関係の企業に転職したそうです。
「一箇所にとどまるのではなく、自らコミュニティを増やしていくことで、自分の好きなことにも自覚的になれると知りました。好きを仕事にするって綺麗事だと思われがちですが、それを実現していけるのがこの働き方。地方は挑戦できる機会が多いので、まずは旅をする感覚で地方を訪れ、小さくとも仕事を始めてみたらいいと思います」
写真:岡田良寛(小林未歩)、©ホテルニューアカオ(3枚目、4枚目)
PROFILE
小林未歩(こばやし・みほ)
企画プランナー。新卒でクックパッドに入社し、広告の企画営業として大手食品メーカーのマーケティング支援に携わる。2018年に、スマイルズに転職。同時期に趣味であったアウトドアに関わるため、アウトドアメディアのプランナーとして複業をはじめる。その後、クックパッドやスマイルズでの経験を活かし、外食店や企業の食のプロモーションのコンセプト開発やフードプロデュース等を積極的に行うように。現在は本業も旅行系のベンチャー企業に転職、地域活性化やホテルの企画・プロデュース業務を担当。旅と食とアウトドアが好き。