守備面が整ったからこそ、挑戦できる。防災会社が複業人材とともに目指す「総合防災業」の姿
2019年11月より、CIRCULATION LIFEを通じて複業人材を採用した熱海の防災会社「ウェックス(旧社名:ワタナベ電気防災)」は、複業者の柳井大和さんと二人三脚で、ITを活用した業務改善を進めてきました。
今年9月から代表取締役に就任した渡辺淳司さんは、「社内のインフラが整ってきたことで、ようやく新たなことに挑戦できる」と話します。
この9ヶ月間の歩みや変化、これから実現したいことを、柳井さんとともに語ってもらいました。
最新が最適ではない。あえてエクセルの導入から始めたわけ
ウェックス(当時はワタナベ電気防災)が昨年9月にバックオフィスのプロフェッショナル人材を募集したのは、案件の増加に伴う対応の抜けや遅れが発生し、業務改善が急務となっていたためでした。
渡辺さんは会社として新たな取り組みをしていくにあたり、“守備面”のもろさを痛感していたといいます。
「これまで案件管理は、ご依頼をいただいたらホワイトボードに書き、終わったら消すというアナログな方法をとっていました。ですが、防災の仕事は設備設置、点検や申請書の確認など工程が多く、ホワイトボードによる管理では限界があると感じていたんです。実際に案件漏れも起こっており、早急に対応する必要がありました」(渡辺さん)
社員の年齢もITへの理解度も幅がある中で、柳井さんが取り組んだ最初の一歩は、案件管理のエクセルシート化でした。
「業界特有の工程のほか、請求をはじめとするお金の動きも当然あり、すべてを一元管理できるシステムは既存ではなさそうでした。そもそも、採用が決まった時点では防災の知識もなく、僕自身の業務理解がずれていて実態に合わないシステムを提案してしまうリスクもありました。
渡辺さんは『社員全員に浸透する仕組み』を重要視していたこともあり、まずは入りやすいエクセルを選びました」(柳井さん)
「柳井さんが提案してくれたシートは、僕の理想にかなり近かったです。案件ごとの対応ステップが見通せて、使い方もわかりやすく、社員も拒否反応を示すことなく使うことができました。
契約をした2日後には提案が上がってきたスピード感にも驚きましたね」(渡辺さん)
分岐点は、社員自身が変化によるメリットを感じたこと
案件管理のエクセルシートの導入を経て、社内での柳井さんへの信頼度が高まったターニングポイントは「日報の改善」でした。
「これまで社員は、現場から戻ると『日報』とお客様向けの『作業報告書』の両方を作成していました。ですが、柳井さんが日報に入力した情報をそのまま作業報告書に差し込めるようにしてくれたおかげで、作業効率が上がりました。
当初から、柳井さんの人当たりの良さや専門家という立場に対して社員の信頼はありましたが、社員自身が改善によるメリットを感じられたことで、より信頼が深まったように思います」(渡辺さん)
Googleのフォームとスプレッドシートを活用をしたオンラインでの日報の仕組みを年明けに導入し、若い社員からベテラン社員に広まっていく形で、春先には現場社員全体に浸透。渡辺さんの予想以上に順調に改善が進む結果となりました。
「以前、別の仕事で数十ページのシステムマニュアルを作ったところ、『半年たっても一回も開かなかった』と言われたことがあったんです。まずはマニュアルありきで使えるものではなく、触ればわかるシンプルな仕組みを目指しました」(柳井さん)
改善が順調に進む背景として、「柳井さんの寄り添い方が大きい」と渡辺さんは続けます。
「パソコン操作が得意でない社員でも使いやすいように配慮してくれたことはもちろんですし、設備点検など現場から疲れて帰ってきた時に負担にならない仕組みは何かを、常に現場目線で考えてくれます。あとはとにかく話をよく聞いてくれるんです」(渡辺さん)
「今は独立して個人事業主として働いていますが、前職ではアパレル企業の社内SEとして働いていました。システム開発自体は外部に発注していたのですが、社内からの要望を業者に伝えて、業者からの返答を社員に戻し調整するような、“通訳”的な仕事が多かったんです。
新たに仕組みを作り浸透させるためにも、理解度や部署の文化などによる違いを埋めることが大事ですし、その橋渡しをしてきたことが、今も役立っているのかもしれません」(柳井さん)
システム変更とともに会社のビジョンも浸透
こうした改善を重ねた結果、以前は発生していた対応漏れはゼロになり、対応遅れも極端に減少しました。
さらに最近では、社員の意識にも変化が生まれてきました。渡辺さんは社長就任にあたり、これまでの価値観を維持するのではなく、変化を起こしながら仲間とお客様のために貢献していきたいとの思いがあります。
そうしたメッセージや会社の方針が、システムの変化とともに社員に浸透しつつあります。
「システムは会社のビジョンを実現するための手段のひとつです。どんな会社に変化していきたいかというメッセージはこれまでも社員に伝えてきましたが、新しいシステムを導入したことで、変化に対する本気度が社員へ伝わり、ビジョンへの理解もより深まってきたように感じます」(渡辺さん)
これまで業務改善は渡辺さんと柳井さんの二人三脚でしたが、最近ではSlackの「業務改善」チャンネルに若手人材2名が加わり、チームとして動き出しています。
「柳井さんというバックオフィスのプロから忖度なく意見をもらえるようになり、僕を含め、社員も刺激を受けています」(渡辺さん)
設備だけでなくソフトも担える総合防災業へ
9月より社名を「ワタナベ電気防災」から変更し、経営理念やWebサイトも刷新したウェックスは、社名や組織体制の変更とともに、業務改善システム「kintone」をベースとしたシステムを導入していきます。
先に導入したエクセルやスプレッドシートに慣れてきたタイミングでの移行ということ、より本格的なシステム導入ということもあり、二人は「この先に山場があるのではないか」と感じているそうです。
ですが、これまでの9ヶ月間の歩みや成果が自信につながっています。
「お客様情報をデータベース化し、より個々に合わせた対応を社員一人ひとりができるようにしていきます。また、ディフェンス面が整ってきたので、これからはオフェンスに転じていきたい。
消防設備業はアナログな部分が多く、たとえば建物の防火管理に必要な台帳を管理人さんが分厚い紙媒体で持っていたりします。そうすると、情報も防災意識もその人だけに滞留してしまう。設備は導入しても使われないと意味がないし、お客様の命や財産を守るために機能しないといけない。
今後は、インターネットを活用した透明性のある情報のアクセスや、防災意識の浸透までを担っていく構想を持っています。単なる防災設備の会社ではなく、ソフト面も担える『総合防災業』になっていきたいですね」(渡辺さん)
整ってきた社内のインフラ、そして柳井さんという心強い存在とともに、ウェックスは新たなビジョンに向かって動き出します。
「複業を取り入れる前、正直不安がないわけではありませんでした。初めての試みだったので、どう業務を推進するか、給与や契約形態はどういった形がベストなのか、最初にすり合わせしつつも模索しながらでした。ただ、その心配もコミュニケーションを重ねていくうちに少しずつ消えていきました。
今では、柳井さんは会社に絶対に必要な存在ですし、何かあれば一番に相談できる関係性。これからも一緒に考えていってほしいです」(渡辺さん)
「仕事が始まって最初の3ヶ月が経つタイミングでは、契約を更新するかの確認をしましたが、それ以降は仕事が終わる感じがまったくしないので、お互い確認していないんです(笑)
もちろん、業務内容や稼働頻度はすり合わせながらではありますが、成果を出していくためにも“外部”の視点は残しつつ、これからもできる最善を尽くしたいと思っています」(柳井さん)
取材・文:福田さや香、写真:岡田良寛
PROFILE
代表:渡辺 淳司
住所: 静岡県熱海市網代130-1
電話番号: 0557-68-5056
Mail:info@wecs.co.jp
Web: https://www.wecs.co.jp/
設立: 1989年9月9日(2020年9月2日に「ワタナベ電気防災」から「ウェックス」に社名変更)
資本金: 950万円
事業内容: 防災設備工事業、消防用設備全般の保守点検業務、各種消火器及び防災用品販売、電気設備工事業、音響設備工事業など。